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幻想
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「子を成さない男児が、後宮に召される理由は人質である。――人質である主が王である私に対し、そのような態度を取り続ければ、一族に叛意ありと見做されても致し方あるまい」

それは、脅迫だった。
私がこれ以上抵抗を続ければ、一族を滅ぼすと。
ヨルダン様は暗にそう告げておられるのだ。

実家に残してきた、父の顔が浮かぶ。
苦渋の顔で私を送り出した父。
私が成人した頃より、遥かに歳を取られ、老いが目立つようになった。
後宮に上がることになった私に涙を流してくれた母。
後宮へ上がることになった私を沈痛な面持ちで見送ってくれた兄。
心温かく、いつも私を見守ってきてくれていた領民たち。

そんな彼らの笑顔を、失わせる訳にはいかなかった。

「………そう、最初からそのように大人しくしておれば良いのだ」

先程までの抵抗を取り止めた私は、屈辱に目を瞑り、顔を背けた。
身体の横に治めるしかなかった腕の先では、拳を震わせた。
しかし、この拳を振り上げることはできない。

「抱く度に、寝込まれては堪らないからな。今宵からはたっぷり時間を掛けて喰ろうてやろう。騎士の身体が、徐々に娼婦のそれとなるのを楽しみにしておれ」

それは屈辱的な台詞だった。
ヨルダン様は、私の矜持を崩す台詞を心得ていらっしゃった。





「んっ……ふっ……」

決して声を出すまいとして、口を閉ざすものの、鼻から抜けるような甘い声が零れるのを止めることはできなかった。
ヨルダン様は言葉通り、あの晩とは打って変わってゆっくりと私の身体を暴いていった。
ヨルダン様の指先が私の身体を優しくなぞる度に、何とも言えないむず痒さを感じる。全くあの時とは違う体感に、戸惑いばかりが過った。

「…………っ」

ヨルダン様の指が私の急所にまで達した時、驚きに身体が大きく跳ねてしまった。あの夜に全く触れられなかったそこは、ヨルダン様の手技によりゆるゆると固くなり始めていた。
まさか、そんなところを触られることになるとは思わず、直接的な快感に手の甲を噛みしめていた。そうすることでしか、口から零れそうになる嬌声を防ぐ方法が見付からなかったのだ。

やはり同じ同性であるからか、ヨルダン様の愛撫はピンポイントに私の性感を刺激してきた。
直にそれは完全に勃起した形となり、汁を溢し始める。射精が近いのを感じ、息が荒くなる。
しかしヨルダン様はそんな私を放置して、滴る汁を指に絡ませ、最奥へと指を走らせた。
そこは、あの晩無惨に暴かれ所だった。傷は完全に癒えていたが、触れられるとあの時の恐怖が甦る。

甲を噛む顎に、力が入る。必死に悲鳴を噛み殺す。
だがそんな私の緊張も、ヨルダン様の精巧な手技によって解かされていった。
滑りを帯びた指は、私の身体に無理を強いることは無い。滑るように、後孔の周りをなぞり周囲の筋肉の緊張を解かせていった。

侵入は容易に行われた。
何の痛みも伴うことの無かったそれは、ただただ異物感だけを私に感じさせた。
最初は一本、次に二本。
三本目の侵入を許した頃には、その異物感にも慣れ、奇妙な感覚だけが残った。
それが快感の芽だと言うことに、この時の私はまだ気付いていなかった。

三本の指の圧迫感に漸く慣れた頃、突如としてその感触が消えてなくなった。
引き抜かれる際に鳴った卑猥な音に、思わず顔が赤面してしまう。
そんな羞恥心に浸る間もなく、直ぐに訪れた衝撃に、私は息を詰めることとなった。





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